LCH におけるリスク管理
リスク管理は、LCH のあらゆる業務の根幹にあります。金融市場の安全を守るという公共的使命を担う民間企業として、当社は最も不安定な市場環境下においても、清算会員とそのクライアントに対して、強靭かつ堅固な中央清算サービスを提供することを最優先の目的としています。
当社のリスク管理のフレームワークは、これまで幾度となくその有効性が証明されており、近年の市場の混乱期においても、会員の保護に努めて参りました。
また当社では、清算会員およびそのクライアントに対して、清算取引および担保に対する保護レベルを自由にカスタマイズできるようにしています。効率性を最大化するための完全混合ポジションから、資産を完全に分別する口座まで、柔軟な選択が可能です。
これこそが、LCH が「市場のパートナー」であることの証です。
LCH の強み: より安全な市場のためのリスク管理
LCH は、リスク管理の分野において競合他社とどのように差別化を図っているのでしょうか。
すべての清算機関は、一般的に共通したリスク軽減手続きを採用していますが、当社ではそれに加えて、より高度かつ手厚い保護を提供できるよう、常に一歩先を行く取り組みを行っており、その姿勢を誇りに思っています。これこそが、LCH ならではの違いです。
以下に、LCH の独自性がどのように具体的に表れているか、また当社の業界最高水準のリスク管理原則が、他の中央清算機関 (CCP) と一線を画す要因となっている点を紹介します。
リスク・ガバナンス
リスク・ガバナンスは、優れたリスク管理を実現するための基盤です。ガバナンスの枠組みは、CCP の安全性および効率性を高めるために、役割と責任を明確に定義するものです。
LCH の特長: 当社のリスク管理フレームワークは、3 つの防衛線モデル (3LoD) に基づいています。このモデルは、効果的なリスク管理のためのベストプラクティスとして認識されており、役割の分離を通じて組織内に客観性を育むことを可能にします。
3LoD モデルにおいては、リスク方針の適用は主に第 1 の防衛線として、業務部門が担う役割となっています。
リスク管理チームは第 2 の防衛線として、LCH 取締役会が定める基準に基づき、各種清算業務から生じるリスク・エクスポージャーに対する独立した保証およびモニタリングを提供する役割を担っています。
第 3 の防衛線は内部監査部門であり、その役割はリスク管理の実践状況を検証し、取締役会に対して保証を提供することです。
会員基準
リスク管理は、企業が清算機関の会員として承認される以前の段階からすでに始まっています。すべての会員候補は、CCP のリスク管理要件を満たすための十分な財務的基盤と業務運営能力の双方を備えているかどうかについて、厳正な審査を受けます。
LCH の特長: 当社では、清算サービスへの参加に際して厳格な適格要件を設けています。清算会員候補は、清算を希望するアセット・クラスにおいて、清算済取引の適切な評価、リスク管理、ならびに破綻管理を遂行するために必要な能力を有していることを証明しなければなりません。
当初証拠金 (IM)
清算機関は、会員が債務不履行に陥った際に発生する損失をカバーするために、会員から IM を徴収しています。英国および EU の法令によって、上場および 店頭 (OTC) デリバティブに対してそれぞれ 99% と 99.5% の信頼区間が、IM の算定基準とされています。米国の法令では、最低でも 99% の信頼水準が求められています。
LCH の特長: 一部の CCP は、IM の算定において、規制上の最低要件のみを計算しています。当社では、より強化された 99.7% の信頼区間 (但し、上場金利商品については 99% の信頼区間) に基づいて IM を算定しています。当社独自の IM モデルは、一貫したリスク指標、標準化されたリターン、ならびに可能な限り最長 10 年におよぶ長期の履歴データを活用する設計となっています。これらのモデル特性は、安定的かつ保守的な証拠金水準を維持しつつ、望ましくないプロシクリカルな挙動を回避するための最適なバランスを実現することを目的としています。
変動証拠金 (VM)
CCP は、清算済取引の時価評価額の変動を反映するため、すべての清算参加者から日次で VM を徴収します。
LCH の特長: 当社では、清算ポジションの価値変動を取引時間中により正確に追跡するために、複数回の日中マージン・コールを実施しています。市場が変動する局面においては、日中に追加の VM を徴収することで、前日から翌日にかけて価格が急変することによるカウンターパーティーへのリスクを最小限に抑えることが可能となります。OTC 清算サービスにおいては、新規取引に起因するリスクが受け入れ/ノベーション前に担保されるよう、リアルタイムで日中のリスク・モニタリングを実施しています。
破綻管理のためのリソース
清算会員が破綻した場合、まず当該会員の担保とデフォルトファンド拠出金が使用され、次に CCP 自身の資金 (「スキン・イン・ザ・ゲーム」) が充当されます。さらに必要がある場合には、非破綻清算会員のデフォルトファンド拠出金が使用されます。
LCH の特長: 当社が採用する「defaulter-pays」の原則により、担保要件が高く設定されています。これにより、破綻した清算会員の利用可能な証拠金が増加し、非破綻清算会員のデフォルトファンド拠出金が使用される可能性が低減します。さらに、各清算サービスにはそれぞれ専用のデフォルト・ファンド・ウォーターフォールがあり、アセット・クラス間でのリスク波及を防止する仕組みとなっています。また当社では、規制上の最低自己資本要件の 25% を「スキン・イン・ザ・ゲーム」として別途確保しており、これにより経営陣に対してリスク・エクスポージャーの管理を徹底する強いインセンティブが働くとともに、モラル・ハザードの懸念を払拭する効果が期待されます。
破綻管理の訓練
CCP は、清算会員の破綻に対応する準備状況を確認するために、定期的に訓練を実施します。
LCH の特長: 当社では、すべての清算サービスが定期的に破綻管理訓練を実施していることに加え、LCH のすべての清算サービスにまたがってリスク・エクスポージャーを有する清算会員の破綻を想定した、グループ全体での年次訓練も実施しています。こうした訓練によって、CCP の担当者、システムと手続き、ならびに清算会員および仲介機関の業務対応力を継続的に検証・確認できます。評価および損失配分を含む、デフォルト・ウォーターフォールのすべての階層について、訓練を通じた検証が行われます。
オペレーショナル・リスク
オペレーショナル・リスク (業務リスク) とは、人的要因、業務プロセス、システムの不備または外部事象に起因して損失が発生するリスクです。このリスクはあらゆる事業体に内在する固有の要素です。
LCH の特長: 当社では、企業全体に対応した専用ソフトウェアによって支えられたフレームワークを整備しており、業務上のリスクを体系的に特定、評価、監視および管理しています。これは、包括的なリスクおよびコントロール・ライブラリを活用したリスクとコントロールの自己評価、損失事象の分析、および主要リスク指標の追跡を通じて実現されています。オペレーショナル・リスクに対する意識は、当社の企業文化に根付いています。独立した部門が第 2 の防衛線としてオペレーショナル・リスク管理を担っており、リスクとコントロールの自己評価の検証を行うとともに、オペレーショナル・リスクに関する報告を経営陣と CCP の取締役会に対して行っています。
事業継続計画 (BCP)
CCP は、金融市場インフラの重要な構成要素として、業務遂行に影響を及ぼす、または及ぼす可能性がある重大な事象や危機が発生した場合においても、事業運営を継続し、迅速な復旧を図るための計画を策定しています。
LCH の特長: 当社の事業継続方針では、すべての重要業務に対して 2 時間以内の復旧を目標としています。この目標は、インシデントや障害の規模に関わらず適用されます。また、迅速な復旧を実現するために必要な技術的手順が記載された災害復旧計画も整備されています。当社では、包括的な非常時対応計画、業務復旧施設、およびデータセンターを定期的にテストし、厳格な社内基準を満たしていることを確認しています。
高度なリスク管理基準を維持することで、当社は強固で柔軟性のある清算機関として、参加者のリスクを最小限に抑制しつつ、金融市場の安定に貢献できる体制を整えています。
以上が LCH が選ばれる理由です。
LCH Ltd と LCH SA におけるリスク管理
LCH グループには 2 つの中央清算機関 (CCP) があり、1 つは英国の LCH Ltd 、もう 1 つはフランスの LCH SA です。
LCH ではリスク管理に関して統一的なアプローチを採用していますが、両法人が所在する国の適用される法的・規制上の要件や、それぞれが清算するアセット・クラスの違いにより、詳細には一部差異があります。
以下の 2 つのリンクをクリックすることで、当社の両 CCP におけるリスク管理枠組み、証拠金算出手法とモデル、破綻管理およびリスク・ガバナンスについて、詳細な情報をご覧いただけます。
関連リンク
デフォルト管理における確かな実績
LCH はこれまでに 9 件の会員の破綻を管理しており、すべてのケースにおいて損失額は保有 IM の範囲内に収まりました。
- VTB Capital PLC (2022)
- Maple Bank GMBH (2016)
- Cyprus Popular Bank Co Ltd (2013)
- MF Global UK Ltd (2011)
- Lehman Brothers (2008)
- Griffin (1998)
- Barings (1995)
- Woodhouse, Drake and Carey (1991)
- Drexel Burnham Lambert (1990)
LCH のデフォルト・ファンド、清算会員、および清算対象市場は、これらのいずれの破綻によっても影響を受けませんでした。
LCH のリスク管理における先進的取り組み: ホワイトペーパー
以下のリンク [Insights & Resources: LCH Content Hub | LSEG] (英語) より、LCHが最近発表したホワイトペーパーの一部をご覧いただけます。これらは、清算およびリスク管理に関する洞察と分析を提供しています。