LSEG インサイト

COP30 Net Zero Atlas

Kieran Brophy

Research Lead – Sovereign Climate

Edmund Bourne

Research Lead, SI Research

Jaakko Kooroshy

Global Head of Sustainable Investment Research

Alan Meng

Sustainable Fixed Income Research Lead

95% の国は、国連が定めた「国が決定する貢献」(NDC 3.0) の 2 月の提出期限を守ることが出来ませんでした。しかし、主要排出国による最近の発表によれば、G20 のうち 15 か国 (G20 排出量の 71% を占める) が、2035 年までの目標を定めているとのことです。

LSEG の分析によると、これらの 2035 年目標は 2030 年以降の排出量削減を大幅に加速させることを示しています。G20 諸国で目標を定めている国の年間排出削減量は、NDC 2.0 に基づく 2023 ~ 30 年の -0.5 ~ -0.7% から、2030 ~ 35 年には -2.6 ~ -3.5% に上昇し、2030 年目標に比べて 5 年間でさらに 13 ~ 18% の削減が見込まれます。

これは企業と投資家にとって、政府が低炭素経済への移行を加速することで、物理的リスクとともに移行リスクが高まっていることを意味します。

LSEG の Net Zero Atlas 第 5 版は、G20 諸国がさらされている移行リスクと物理的リスクについて、豊富なデータとインサイトを投資家に提供します。 

移行リスク分析の主な調査結果

  • 政策のモメンタム: 地政学的緊張にもかかわらず、現在 70 か国以上が新たな 2035 年目標を提出または発表しています。これには、米国がプロセスから離脱する一方で、中国、ロシア、ブラジル、EU などの主要排出国・地域が含まれます。排出量上位 5 か国のうちインドだけが、最新の排出量見通しについてまだ詳細を発表していません [注 1]。 
  • 気温目標との整合性: 新たな 2035 年目標は、2030 年目標から各国の長期的なコミットメントまでを結ぶ直線的な削減ペースと概ね一致しています。全体として、2035 年に向けた G20 のコミットメントは、予想される気温上昇幅 2.2~2.3°C (NDC 2.0 では 2.4°C) と整合しており、パリ協定の目標には依然として大きく届かない水準です。
  • 排出量削減の加速: 世界の排出量削減の加速は、主に中国やトルコなどの大規模な新興国の排出量がピークに達したことによるものです。2035 年目標は、G20 諸国の排出量が既にピークを過ぎた中で、一部の国 (英国やオーストラリアなど) における脱炭素化の加速が、その他の国 (カナダや日本など) における排出量削減の減速によって相殺されていることを示唆しています。

物理的気候リスク分析の主な調査結果

  • 分析対象となった8か国では、物理的な気候ハザードによって、今世紀半ばまでに追加で 5 億人と GDP 20 兆米ドルが高いリスクにさらされると LSEG は推定しています。その結果、2050 年には 8 億 3,900 万人および GDP 28 兆 3,000 億米ドルがリスクにさらされる可能性があります。
  • 熱帯低気圧: 東京、ニューヨーク、上海などの主要都市において、高リスクにさらされる地域が拡大すると予測されています。日本では、GDP および人口の 80% 以上が、平均して 10 年に 1 回以上、カテゴリー 1 以上の台風に見舞われると予測されており、これは現在の 5% 未満からの大幅な増加です。 
  • 熱波と水ストレス: 2050 年までに、猛暑 (35°C を超える日が年間 30 日以上) に直面する人は、ロサンゼルス、ヒューストン、上海、香港などを含め、世界で 3 億 2,700 万人を超える見込みで、現在の 1,000 万人弱から大幅に増加します。さらに、670 の地域が高い水ストレスにさらされ、健康や経済生産性へのリスクが複合的に高まると予測されています。
  • 洪水: 8 か国の中で、GDP と人口の割合において英国が最も高いエクスポージャーを示しています。テムズ河口域では、GDP 1,000 億米ドルがリスクにさらされる可能性があり、英国全体のエクスポージャーは 2050 年までに GDP の 9.7% に達すると予測されています。
  • 山火事: 山火事のリスクは世界的に高まり、1,640 万人が新たにリスクにさらされる見込みです。カリフォルニアだけでも、約 950 万人がリスクに直面すると予測されています。

他と一線を画すポイント

  • 予想温度上昇 (ITR) 指標の統合: この取り組みは、国の気候変動目標がどれほど意欲的であるかを評価するために、国レベルの ITR スコアを独自に適用するものです。排出量見通しを気候変動の結果に変換することで、各国とパリ協定の目標との整合性を評価するための明確で比較可能なベンチマークを提供します。
  • NDC 3.0 の公約に関する将来予測分析: この分析では、2035 年に向けた第 3 世代の NDC を詳細に評価しています。新たな NDC が世界の排出量見通し、移行リスク、脱炭素化のスピードにとってどのような意味を持つかを評価しており、COP30 を前にして投資家や政策当局にとって非常に有意義なものとなっています。
  • 詳細な国レベルの排出量見通しの比較: Atlas には、G20 諸国全体における予想年間排出量の変化の詳細な内訳が含まれており、過去のトレンド、現在の政策、将来のコミットメントを比較しています。これにより、どの国が気候変動への取り組みを加速または減速させているか、そうした変化が気候変動に関する国際協調の取り組みとリスク・エクスポージャーにどのような影響を与えているかについて、インサイトを提供します。

LSEG のリサーチが示すものとは?

本レポートは、G20 諸国がさらされている移行リスクと物理的リスクについて、豊富なデータとインサイトを投資家に提供します。 

投資家にとって、政府が排出量削減のコミットメントをどのように策定し、それらのコミットメントが世界の成長軌道と資産のバリュエーションにどのような変化をもたらしているかを理解することは極めて重要です。 

機関投資家は、物理的気候リスクが市場と経済にもたらしつつあるリスクをますます認識するようになっています。それらのリスクがどこで、またどの程度の規模で顕在化するかは、依然として不透明です。

本レポートは、きめ細かなハザード別のマッピングと予測を、詳細な社会経済データとともに提供します。これにより、広範な気候モデルを実用的な投資判断に活かすことができます。

Net Zero Atlas シリーズの過去のレポート: 

脚注

[1] 執筆時点。注1 に戻る

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